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釣師は心に傷があるか・・・


釣師は


心に傷があるから

釣りに行く。

しかし、

彼はそれを

知らないでいる。


林房雄「緑の水平線」『オーパ、オーパ!!』より

みんな、山を見る・・・・・

みんな、山を見る

オレ、川を見る

みんな、東京に集る

オレ、旅に出る

   テレビで見る

   トリス飲む


1964年10月サントリー「トリス」広告より

どの酒でもそうだけど・・・


どの酒でもそうだけど、口に入れたら、歯ぐきへまわしてしみこませるんだ。

そこでしばしためらって本質が登場するのを待ち、かつ、眺める。

歯ぐきはたいせつなんだよ。



『夏の闇』
より

ひとくちに戦争といっ・・・


ひとくちに "戦争" といってもその様態は無数であり、経験は無数であり、記憶もまた無数であって、こまかく痛切なところで話し合っていくと、やがて、どう手のつけようもなく彼我のあいだに茫漠とした薄命の、まさぐりようのない地帯がうかびあがってくることを痛感させられて、沈黙せずにはいられなくなってくる。



『開口閉口』より

かくて・・・・・・・・・・


かくて、


陽はまた昇る。


開高健と佐々木克彦の共作
1979年 サントリー「オールド」広告より

日本の春は唸らない・・・・


日本の春は唸らない。


鳴かない。


さえずらない。


跳ねない。


汚れた沈黙があるだけだ。



『フィッシュ・オン』
より

無数の作家たちが性の・・・


無数の作家たちが性の描写に熱中するほど眠りの描写に熱中しないのはどうしてだろうかと、うとうと考える。


『夏の闇』
より

釣師は魚に自身の投影・・・


釣師は魚に自身の投影を見たがっていて、闘志満々の魚に遭遇すると、糸という電線をつたってその気力がこちらにほとばしりこんでくるように感ずる。

精悍、老獪、気まぐれ、貪婪、賢明、器用、阿呆、魚もさまざまな性格を持っているが、釣師はどの性格も自身の分身と感じているのである。


『もっと遠く!』より

釣りをしているときは・・・


釣りをしているときは外からは静かに見えるけど、実は妄想のまっただ中にある。


このとき考えていることといえば、原稿料のこと、〆切日のこと、編集者のあの顔この顔、それからもっと淫猥、下劣、非道、残忍。


もうホントに地獄の釜みたいに頭の中煮えたぎってる。


それが釣れたとなったら一瞬に消えて、清々しい虚無がたちこめる。



『地球はグラスのふちを回る』
より

日本人というのはまだ・・・


日本人というのはまだまだ性短急なるところがあって、論争でけんかになると、一生けんか別れになるような関係が多いね。

論争ではけんかになっても、友情は完全に保持出来るという、おおらかさとゆとりがないんじゃないか。


『悠々として急げ』より

おそらく見ることはそ・・・


おそらく《見る》ことはそのものになることであるが、生涯のうちでもめったにそういうことは発生しない。

眼が人の肉の全てと化すのはおそらく死の瞬間しかない。

見ることはそのものになることであると、生きている人が書くのは、ただ覚悟を述べているのである。


『白いページ』より