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真実の感じられない嘘・・・


真実の感じられない嘘は駄洒落に墜ちるし、


嘘を予感させない真実はじつにしばしば嘘がにじみだしてくる。


『白いページ』より

小説は報道を含んでも・・・


小説は報道を含んでもいいし、しばしば必須栄養物をそこから得るのだが、報道は小説を断じて含んではならない。



『白いページ』より

自制はたしかにアジア・・・


" 自制 "はたしかにアジアでもっとも発達した感情である。


それは諦念、謙譲、自己犠牲などの形をとってあらわれる。

アジア人は劇としての沈黙の効果を精密に知り、劇場から町、道路、部屋、宴会、独居、妻、友人、闘争、和解、ありとあらゆる場所と瞬間に技を精錬することにつとめる。


『ベトナム戦記』
より

酒だろうと、香水だろ・・・


酒だろうと、香水だろうと、ハタまた文学であろうと、お粗末品すべてにつきまとうイヤらしさをよくよくおぼえておくのが上物を味得するもっともたしかな、狂いのない方法である。


日頃どれだけお粗末品をたしなんでいるかによってどれだけ上物の全域と真髄が察知できるかがキマる。


『白いページ』より

文学というものは、書・・・


文学というものは、書くほうも、出版するほうも、ギャンブルなのだ。


それも両面待ち、三面待ちという手の使えない、いつも一点張りの、のるか、そるかの張りかたしかできない賭けなのである。


『開口閉口』
より

外交官とは何か。それ・・・


外交官とは何か。


それは一言で定義すれば、祖国のための平然として大嘘をつくことを職業としている正直者である。


『白いページ』より

わしは老作家じゃない・・・


わしは老作家じゃないぞ。 


だから老眼でもない。


40才からのメガネ「シニアグラス」広告より

ボゴタの少年のスリ


ボゴタの少年のスリ


眼は天使、微笑は純金、指はリス、足は影。


『ALL WAYS』より

ムーンストーン


ムーンストーン


柔らかい乳白色の高原の夜霧のなかに青い光耀がある。

この石には、大いなる鐘の沈んだ淵や月下のタージ・マハールの壁がひそんでいる。


『ALL WAYS』より

はじめての町にいくに・・・


はじめての町にいくには夜になって到着するのがいい。

灯に照らされた部分だけしか見られないのだからそれはちょっと仮面をつけて入っていくような気分で、事物を穴からしか眺められないことになるが、闇が凝縮してくれたものに眼は集中してそそがれる。


『夏の闇』より

いかに世に中には活字・・・


いかに世の中には活字にならないで流れてゆく言葉の数の多いことか。


小説家や批評家や歴史学者や社会科学者たちがそれぞれ群れごとに集る飲み屋が無数にあるが、そこへいって耳を傾けたら、あなたはびっくりするだろうと思う。

そういう人たちが文字に書いて発表するいけんとはまるでウラハラな、まったく正反対な意見をここらではしじゅう熱中して平気で吐いている光景にぶつかる。


『ずばり東京』
より

アメリカ人にもし脅迫・・・


アメリカ人にもし脅迫観念があるとすれば、オレハ十二分ニ能率ヲ上ゲテイルダロウカというつぶやき、


フランス人に脅迫観念があるとすれば、オレハ十二分ニ楽シンデイルダロウカというつぶやき、

そして私たち日本人は、ひっきりなしに、夢のなかまで、オレハ十二分ニ働イテイルダロウカ、何デモシナケレバナラヌとつぶやきつづけているのである。


『声の狩人』より

大自然を相手にしたら・・・


大自然を相手にしたら、ヒトは、一匹のか弱い動物にすぎません。


でも、ちょっとした文明の知恵を着ることはできるんだ。

この小説家みたいに、ね。


デサント広告より

人が賢くなれるのは・・・・


人が賢くなれるのは・・・


昨日をふりかえるときだけ。


『ALL WAYS』より

現在


現在


一瞬ごとに音もなく未来は現在となり現在は過去となる。

劫初からこの大河を止めることのできた人は一人もいない。

しかし、過去・現在・未来の三つがあるのは現在だけである。

この一滴の中だけである。


『ALL WAYS』より

魚だろうと獣だろうと・・・


魚だろうと獣だろうと人間だろうと、群れにはかならず異分子がまじる。


群れにまじっていようといるまいと、群れからはずれていようといまいと、その位置に関係なく、アウツ(体制外者)がかならず発生するのである。

つまり、個性があるのだ。


『もっと遠く!』より

どこの競馬場でも競輪・・・


どこの競馬場でも競輪場でも入口が坂になっている。


だから、入るときは速いが、出るときはおそい。

「それはつまり、アリじごくということじゃないのかね」


『ずばり東京』
より

正義が国家や企業のエ・・・


" 正義 "が国家や企業のエゴイズムの牙で両足をくわえられているかぎり、


ある人びとにとっての殺人鬼は国境を一歩こえれば救国の英雄である。


『声の狩人』より

小さな死 La Petite Mort


小さな死 La Petite Mort


情事の直後の、

短くて、

深くて、

完璧なとろとろの昏睡を、

フランス人は、

" 小さな死 "と呼ぶ。


『ALL WAYS』『夏の闇』『知的な痴的な教養講座』より

何故、山にのぼるか・・・・


何故、山にのぼるか、と質問されて、山がそこのあるから、と名答した人がいる。


おそらくこの人はどう答えたところで相手に通ずるものではないと知っていたからだろう。

知ル者ハ言ワズ、言ウ者ハ知ラズ、の見事な一例であるか。


昭和63年1月1日「朝日新聞」『ALL WAYS』より

おしゃべりは梅毒であ・・・


おしゃべりは梅毒である。


内省も梅毒である。

いまの私には平和が梅毒である。


『夏の闇』
より