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自制はたしかにアジア・・・
" 自制 "はたしかにアジアでもっとも発達した感情である。
それは諦念、謙譲、自己犠牲などの形をとってあらわれる。
アジア人は劇としての沈黙の効果を精密に知り、劇場から町、道路、部屋、宴会、独居、妻、友人、闘争、和解、ありとあらゆる場所と瞬間に技を精錬することにつとめる。
『ベトナム戦記』より
酒だろうと、香水だろ・・・
酒だろうと、香水だろうと、ハタまた文学であろうと、お粗末品すべてにつきまとうイヤらしさをよくよくおぼえておくのが上物を味得するもっともたしかな、狂いのない方法である。
日頃どれだけお粗末品をたしなんでいるかによってどれだけ上物の全域と真髄が察知できるかがキマる。
『白いページ』より
はじめての町にいくに・・・
はじめての町にいくには夜になって到着するのがいい。
灯に照らされた部分だけしか見られないのだからそれはちょっと仮面をつけて入っていくような気分で、事物を穴からしか眺められないことになるが、闇が凝縮してくれたものに眼は集中してそそがれる。
『夏の闇』より
いかに世に中には活字・・・
いかに世の中には活字にならないで流れてゆく言葉の数の多いことか。
小説家や批評家や歴史学者や社会科学者たちがそれぞれ群れごとに集る飲み屋が無数にあるが、そこへいって耳を傾けたら、あなたはびっくりするだろうと思う。
そういう人たちが文字に書いて発表するいけんとはまるでウラハラな、まったく正反対な意見をここらではしじゅう熱中して平気で吐いている光景にぶつかる。
『ずばり東京』より
アメリカ人にもし脅迫・・・
アメリカ人にもし脅迫観念があるとすれば、オレハ十二分ニ能率ヲ上ゲテイルダロウカというつぶやき、
フランス人に脅迫観念があるとすれば、オレハ十二分ニ楽シンデイルダロウカというつぶやき、
そして私たち日本人は、ひっきりなしに、夢のなかまで、オレハ十二分ニ働イテイルダロウカ、何デモシナケレバナラヌとつぶやきつづけているのである。
『声の狩人』より
現在
現在
一瞬ごとに音もなく未来は現在となり現在は過去となる。
劫初からこの大河を止めることのできた人は一人もいない。
しかし、過去・現在・未来の三つがあるのは現在だけである。
この一滴の中だけである。
『ALL WAYS』より
魚だろうと獣だろうと・・・
魚だろうと獣だろうと人間だろうと、群れにはかならず異分子がまじる。
群れにまじっていようといるまいと、群れからはずれていようといまいと、その位置に関係なく、アウツ(体制外者)がかならず発生するのである。
つまり、個性があるのだ。
『もっと遠く!』より
何故、山にのぼるか・・・・
何故、山にのぼるか、と質問されて、山がそこのあるから、と名答した人がいる。
おそらくこの人はどう答えたところで相手に通ずるものではないと知っていたからだろう。
知ル者ハ言ワズ、言ウ者ハ知ラズ、の見事な一例であるか。
昭和63年1月1日「朝日新聞」『ALL WAYS』より
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