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最初の一匹はいつもこ・・・


最初の一匹はいつもこうなんだ。


大小かまわずふるえがでるんだよ。

釣りは最初の一匹さ。それにすべてがある。

小説家とおなじでね。処女作ですよ。

だからおれは満足できた。

もういいんだ。魚は逃がしてやりなさい。

おれたちは遊んでるんだ。



『夏の闇』より

Fish and Chips


Fish and Chips


ロンドンでは屋台で " フィッシュ・アンド・チップス " といって売ってるでしょう。

ジャガイモの揚げたのと、イワシか何か小魚の揚げたの。

あれを買うと新聞紙を三角にした袋に入れてくれるわね。

そのときに注意しなけりゃいけないっていうのよ。

あれを下宿までさめずに持って帰りたかったらエロ新聞に包んでもらえっていうのよ。

そうしたらいつまでもホカホカあたたかいんですって。

まかりまちがっても「タイムズ」で包んでもらっちゃいけない。

たちまち冷凍になるそうよ。



『夏の闇』
より

心はホラ吹き男爵、眼・・・


心はホラ吹き男爵、


眼は科学者、

腕は釣師の三位一体。



『オーパ、オーパ!!』より

遠い道をゆっくりとけ・・・


遠い道を


ゆっくりと

けれど休まずに

歩いていく人がある


色紙より

夜、来たる。オレ、寝・・・


夜、来たる。


オレ、寝る。

寝酒、飲む。

眼、とける。


1964年6月 サントリー「トリス」広告より

キング・サーモン


キング・サーモン(キーナイ河)


私は虚脱してすわりこむ。

全身がふるえ、腕がふるえ、手がふるえ、ラッキー・ストライクがふるえる。

三十四時間の焦燥と緊迫と疲労は霧散した。

一滴の光が獲得できた。

瞬間は手にできた。

虚無の充実で輝きわたる。


『オーパ、オーパ!!』
より

チョウザメ


チョウザメ(フレイザー河)


一億五千年前を釣ったのだ。

気の遠くなるような時間を一瞬に私はさかのぼり、

種の奔流と混沌のさなかをこえて一時代に到達したのである。

躍動する化石を目撃できたのである。

蒼古との奇遇である。

手と体がふるえた。



『オーパ、オーパ!!』より

トクナレ


トクナレ(アマゾン河)

これが黄いろい泥水から不意に水しぶきをたてて跳躍すると、

八月の夕陽のなかで、緑、白、黒、金、朱、橙が濡れた花火のように炸裂するのである。


『オーパ!』より

私はどんなものでも食・・・


私はどんなものでも食べる。

大阪生まれのせいだろうか。

食べることには目がない。

朝、目をさまして、まず考えることは、さて今日はどんなものに出会えるだろうかということである。

あれはどうだろう、これはどうだろう、熊掌燕巣、

ふとんのなかで目をパチパチさせながら想像を走らせるときの楽しさったらない。



『開口一番』より

何かの事情があって野・・・


何かの事情があって


野外へ出られない人、

海外へいけない人、

鳥獣虫魚の話の好きな人、

人間や議論に絶望した人、

雨の日の釣師・・・

すべて

書斎にいるときの

私に似た人たちのために。



『オーパ!』より

モノを上手に食べ、見・・・


モノを上手に食べ、

見ている人に食欲を起こさせるようなぐあいに食べるというのはみんなが忘れているマナーだが、

なかなかむつかしい演技だと思う。


『地球はグラスのふちを回る』より

生まれるのは、偶然・・・・


生まれるのは、偶然

生きるのは、苦痛

死ぬのは、厄介



聖ベルナール『オーパ!』より

跳びながら一歩ずつ歩・・・


跳びながら一歩ずつ歩く。

火でありながら灰を生まない。
時間を失うことで時間を見出す。
死して生き、花にして種子。

酔わせつつ醒めさせる。

傑作の資格。

この一瓶。


1979年 サントリー「サントリーオールド」広告より

波のなかに岩があるた・・・


波のなかに

岩がある

たくさんの獣が

遊んでいる



色紙より

魚釣りの時間は神様の・・・


魚釣りの時間は


神様の下さった時間なんだから、

私はとことん使い

とことん楽しむことにしています。


ブラジル・サンパウロ市のラパ氏『もっと広く!』より

波の上ねむくなるよう・・・


波の上

ねむくなるような
気分です

舟の上
トリスを持ってきて
よかったな

海の上
し、しずかに
魚が逃げる



1966年8月 サントリー「トリス」広告より

照明弾は落下傘につる・・・


照明弾は落下傘につるされてゆっくりとおち、空と乱雲と川と貧しい町をあかあかと照らしだした。

迫撃砲の火線が椰子の梢と屋根の黒い影をこえ、空に走った。

大型軍用トラックが五台、兵隊を満載し、寝静まった町をふるわせてどこかへ疾走していった。

誰一人として見物にでてくる者もない。

これがこの国の日常なのだ。

どこかの掘建小屋でラジオがものうくシャンソンを流していた。



『ベトナム戦記』より

" I am very sorry. "


" I am very sorry. "(たいへんすみません)


満月のハイ・ウェイを戦略村に向かって歩きながら中学生のように小さいその砲兵隊将校は私にあやまった。

" Oh. What has happened ? "(どうしたんです?)

将校はぽつりと、ひとこと

" My country is war. "(私の国、戦争です)

とつぶやいた。


『ベトナム戦記』より

朝露の一滴にも天と地・・・


朝露の一滴にも

天と地が

映っている


色紙より

ぶどう酒は栓を抜いて・・・


ぶどう酒は栓を抜いてみるまで油断ができない。


パイプは火を入れて何年もたってみなければわからない。



『生物としての静物』より

徹底的に正真正銘のも・・・


徹底的に正真正銘のものに向けて私は体をたてたい。

私は自身に形をあたえたい。

私はたたかわない。殺さない。助けない。耕さない。運ばない。

扇動しない。策略をたてない。誰の味方もしない。

ただ見るだけだ。

わなわなふるえ、目を輝かせ、犬のように死ぬ。



I wanted to stand up and face something absolutely real, authentic.
I hadn't fought, hadn't killed, hadn't helped or plowed or carried ;
I hadn't instigated or planned or taken anybody's side.
I watched. And I could only except to die like a dog, quivering, eyes glazed.


『輝ける闇 ( INTO A BLACK SUN )』
より

人間らしくやりたいな・・・


「人間」らしく
やりたいナ

トリスを飲んで「人間」らしくやりたいナ

「人間」なんだからナ



1961年2月 サントリー「トリス」広告より

身のまわりのすべての・・・


身のまわりのすべての事物が


バラバラに

分解するような気持ちになったら、

魚釣りにいけ。



ソルト・レイク市の釣道具屋のトイレの落書『もっと遠く!』より

魚釣りは子供のうちは・・・


魚釣りは子供のうちはいいけれど、


大人になってからやるものではありません。

人を孤独にしすぎます。


フランス・モンペリエの下宿のおばさん『もっと広く!』より

絶対矛盾的自己同一。


絶対矛盾的自己同一。



西田幾多郎「西田哲学」DVD『河は眠らない』より

肉は骨に近いほどうま・・・


肉は骨に近いほどうまい。


—アルゼンチンのビーフ食いの諺—

食事は大地に近いほどうまい。

—開高健—


『もっと広く!』より

川のなかの一本の杭と・・・


川のなかの一本の杭と化したが、
絶域の水の冷たさに声もだせない。

芸術は忍耐を要求するんだ。


『フィッシュ・オン』より

入ってきて人生と叫び・・・















入ってきて、人生と叫び

出ていって、死と叫ぶ。


『夏の闇』より

愚者は食べ物の話をし・・・


愚者は食べ物の話をし、賢者は旅の話をする。


—蒙古古諺—

で、あるならば、私は愚かな旅人であろうか。

—開高健—


『オーパ、オーパ!!』
より

一時間、幸わせになり・・・


一時間、幸わせになりたかったら
酒を飲みなさい。

三日間、幸わせになりたかったら
結婚しなさい。

八日間、幸わせになりたかったら
豚を殺して食べなさい。

永遠に、幸わせになりたかったら
釣りを覚えなさい。


中国古諺『オーパ!』より