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最初の一匹はいつもこ・・・
最初の一匹はいつもこうなんだ。
大小かまわずふるえがでるんだよ。
釣りは最初の一匹さ。それにすべてがある。
小説家とおなじでね。処女作ですよ。
だからおれは満足できた。
もういいんだ。魚は逃がしてやりなさい。
おれたちは遊んでるんだ。
『夏の闇』より
Fish and Chips
Fish and Chips
ロンドンでは屋台で " フィッシュ・アンド・チップス " といって売ってるでしょう。
ジャガイモの揚げたのと、イワシか何か小魚の揚げたの。
あれを買うと新聞紙を三角にした袋に入れてくれるわね。
そのときに注意しなけりゃいけないっていうのよ。
あれを下宿までさめずに持って帰りたかったらエロ新聞に包んでもらえっていうのよ。
そうしたらいつまでもホカホカあたたかいんですって。
まかりまちがっても「タイムズ」で包んでもらっちゃいけない。
たちまち冷凍になるそうよ。
『夏の闇』より
キング・サーモン
キング・サーモン(キーナイ河)
私は虚脱してすわりこむ。
全身がふるえ、腕がふるえ、手がふるえ、ラッキー・ストライクがふるえる。
三十四時間の焦燥と緊迫と疲労は霧散した。
一滴の光が獲得できた。
瞬間は手にできた。
虚無の充実で輝きわたる。
『オーパ、オーパ!!』より
チョウザメ
チョウザメ(フレイザー河)
一億五千年前を釣ったのだ。
気の遠くなるような時間を一瞬に私はさかのぼり、
種の奔流と混沌のさなかをこえて一時代に到達したのである。
躍動する化石を目撃できたのである。
蒼古との奇遇である。
手と体がふるえた。
『オーパ、オーパ!!』より
私はどんなものでも食・・・
私はどんなものでも食べる。
大阪生まれのせいだろうか。
食べることには目がない。
朝、目をさまして、まず考えることは、さて今日はどんなものに出会えるだろうかということである。
あれはどうだろう、これはどうだろう、熊掌燕巣、
ふとんのなかで目をパチパチさせながら想像を走らせるときの楽しさったらない。
『開口一番』より
跳びながら一歩ずつ歩・・・
跳びながら一歩ずつ歩く。
火でありながら灰を生まない。
時間を失うことで時間を見出す。
死して生き、花にして種子。
酔わせつつ醒めさせる。
傑作の資格。
この一瓶。
1979年 サントリー「サントリーオールド」広告より
照明弾は落下傘につる・・・
照明弾は落下傘につるされてゆっくりとおち、空と乱雲と川と貧しい町をあかあかと照らしだした。
迫撃砲の火線が椰子の梢と屋根の黒い影をこえ、空に走った。
大型軍用トラックが五台、兵隊を満載し、寝静まった町をふるわせてどこかへ疾走していった。
誰一人として見物にでてくる者もない。
これがこの国の日常なのだ。
どこかの掘建小屋でラジオがものうくシャンソンを流していた。
『ベトナム戦記』より
" I am very sorry. "
" I am very sorry. "(たいへんすみません)
満月のハイ・ウェイを戦略村に向かって歩きながら中学生のように小さいその砲兵隊将校は私にあやまった。
" Oh. What has happened ? "(どうしたんです?)
将校はぽつりと、ひとこと
" My country is war. "(私の国、戦争です)
とつぶやいた。
『ベトナム戦記』より
徹底的に正真正銘のも・・・
徹底的に正真正銘のものに向けて私は体をたてたい。
私は自身に形をあたえたい。
私はたたかわない。殺さない。助けない。耕さない。運ばない。
扇動しない。策略をたてない。誰の味方もしない。
ただ見るだけだ。
わなわなふるえ、目を輝かせ、犬のように死ぬ。
I wanted to stand up and face something absolutely real, authentic.
I hadn't fought, hadn't killed, hadn't helped or plowed or carried ;
I hadn't instigated or planned or taken anybody's side.
I watched. And I could only except to die like a dog, quivering, eyes glazed.
『輝ける闇 ( INTO A BLACK SUN )』より
一時間、幸わせになり・・・
一時間、幸わせになりたかったら
酒を飲みなさい。
三日間、幸わせになりたかったら
結婚しなさい。
八日間、幸わせになりたかったら
豚を殺して食べなさい。
永遠に、幸わせになりたかったら
釣りを覚えなさい。
中国古諺『オーパ!』より
